うさぎの書庫

うさぎの書庫です。一般開放しています。ご自由に閲覧ください。

記録する少年のはなし

まだ幾分か幼い少年二人が机に座っている。

一人はなにやらビー玉を大きくしたような球体を指で弄び、もう一人は熱心になにやら紙に書き込んでいる。


「さて、そろそろだよ。」

そう言われて、球体で遊んでいた少年が顔を上げる。


僕たちには大事な仕事がある。


それは、この宇宙のデータを集め記録すること。


世界には銀の幕が落ち、カーテンに縫い付けられた星がキラキラと光っている。


「今日も綺麗な夜だ。」


相方が満足そうに頷く。

こんな風に雲が晴れて澄んだ夜は、仕事がしやすい。


様々なデータ。

善いものも悪いものも、等しく平等に集められ記録され、

"いつか" のための道しるべとして膨大な量の書物として残される。


書庫には、宇宙が始まってからの全ての歴史が記され、そして現在までの有り様が、ぎっしりと文字の羅列としてそこにある。


だけど。


「僕たちは無力だ。こんなにも押し寄せる悲しみにも助けにも、応えることができない。戦争も何もかも、ただ見ているしかできない。」


「だから」

もう一人が真剣な顔で答えた。


「僕らは記録する。そうだろ?同じ過ちを、おかさないように。」


「うん。」


今日も、明日も、その次の日も、僕たちは記録する。


僕たちがいなくなったあとの、誰かが困らないように。




お題より

「夜」「きれいな世界」「伝記」